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笑道入門サル治療:ダントツ若い患者年齢45歳
「若い女性は吐き気が出やすいんだけど、それにしても強く出過ぎてるね」
「…若いんや?世間一般的にはなかなかおばちゃんの部類やねんけどもう」
「僕の患者さんの中では千徒さんダントツ若いで」
でしょうな。
麻酔科の待合で自分より若い患者に出会ったことないもん、この7年間。
平均年齢70くらい。

大学病院なのに待たされるってことが年に数回しかないペイン。
なぜならば、痛みが末期の患者がよってたかって藁にすがりほとんどもう気休めだと思っている最終流刑地なので、内科のように事細かに身体の不調を訴える必要性はないから。
皆が粛々と処方された鎮痛薬を受け入れる。
必要なのは、自分の痛みの程度を10段階評価で申告することと、痛みの頻度を正確に言えること。
淡々と質問に答え、先生が処方を決める。
処方箋をもらって調剤薬局へ行く。
痛い人間がよってたかっているので、ダラダラやっていられる気力はないの。
医療用麻薬ってね処方されるのにおっそろしく時間がかかるのよ、管理が厳重にされる薬だから。

「使ってみてどうやった?」
「ん~メリットとデメリットが同等で、究極の選択やね」
「そっかぁ~」
「質のいい睡眠がとれるっていうメリットは大きいね。でも昼間やねん。夜にその睡眠がとれて日中起きてれば言うことないねけど」
「昼間かぁ~…それはツラいな」
「飲み始めたタイミングが悪かったと思う、夜遅かってん。もちょっと早くに最初を飲んでたら違ってたわ」
「時間を変えて処方しとこか。痛みは?」
「リリカよりは痛む回数は格段に少ない」
「効いてるね」
「ただ、吐き気と便秘はすごい。ま、便秘は下剤使うとしても、吐き気はとんでもない。食事できん」
「トラベルミンは?」
「まったく吐き気を抑えてないで、1食を食べるのがやっと。それも途中でもう飲み込めない気分悪くて。2週間で慣れるやろおもて頑張ったけど何も慣れず。だから勝手にやめたで」
「ん~…そうか…専用の下剤あるからそれを使ってみる?もっと優しいのにしとく?」
「専用のヤツでいく」
「吐き気止めも増やして、もうちょっと麻薬で試してみようか頑張って。これが効いてコントロール出来れば、だいぶ生活の質は改善されて日中がラクになるやろうから」
「根性だけで頑張れるけどね、それは。眠気と便秘は問題ないとしても、吐き気がつらい」
「そやなぁ…吐き気なぁ…」

退院してからずっと医療用麻薬ナシで頑張ってきた疼痛コントロールが、とうとうコロナの影響で悪いほうに転んだ。
治療後に痛みだけが残るような患者のケースでは、その痛みが心因的な要素である場合も少なくない。
記憶した痛みを脳が味わわせてしまうので厄介なの。
心因的な要素がある場合、ストレスのある環境がそれを誘発しやすい。
ストレスを発散できる時間帯に患部はあまり痛まないが、夜中などの逃げ場のない時間帯には痛みを感じやすいのである。
持病を持つ患者は感染症にかかるリスクを避けてコロナ禍の中、引きこもる。
まさに逃げ場所や発散場所がなくて痛んでいる状況なんである。
日本だけでなく世界中が痛いこの状況なのを理解して、薬をくれないことで私とバトルを繰り返してきたあのオニマツがオピオイド系の処方を考えてくれるのだから、コロナの影響もでかしたもんだよね。
泣いても怒ってもオピオイドのオの字もクチにしなかったオニマツが、もうちょっとオピオイドを続けるなんて言いやがった。
…ふ、、、勝った。
何に勝ったかはわからんが、勝った!
とうとう、とうとう、私にほんのわずかな「無痛」の時間が手に入る日々がやってきた。
ものすごい便秘と吐き気と引き換えに数時間の無痛睡眠を味わう。
本物の医療用麻薬ではないからレスキューの処方はなく、残念ながら夢のような痛みからの解放は手に入らないが、数時間痛まずに眠れる質の良い睡眠が取れる。
寝返りの度に痛みで起きて3回目くらいで睡眠をあきらめなくてもいい、そういう夜かあるいは昼が少なくとも3日に1回は得られるのだ。
起きる時には痛いけど眠っている間(長いと3時間くらい)は痛まずにぐっすり眠れる。
それが医療用麻薬で得られる恩恵である。
しかし起きている間の吐き気がすごい。
下剤を服用しても排便は3日に1回なので肌も荒れ、食欲も減る。
日中に起きていることにものすごい忍耐力が要る。
人魚姫、しんどかったやろな。
足を手に入れた代わりに声を失い、歩くたびにナイフで刺されるような痛みでしょ。
ナイフで刺されたことはないけど、私の脾臓の突出痛を表現するなら内臓を直接握りつぶされているような感覚で、ナイフで刺されるのとどっこいどっこいやろな、とよく思う。

突出痛が立て続けに3回出ると息を吸うのがまず怖くなる、吸っても吐いてもどちらのタイミングでも痛むから。
その時は、鼻の中の奥の目の近くの鼻腔の途中くらいで私はヌフー…と言っていることが多い。
なぜそう言うのかは、私が知りたいくらい。
そうやって呼吸をするのが一番痛くないからそう言っているのだろうが、誰かに教わったわけでもなく自然にやっている行動である。
つまり本能。
本能って響きはかっこいいけど、本能の行動ってかなりかっこ悪い見た目よ。
ヌフー…て長ければ1分くらい言ってる45歳のおばちゃんが自転車のハンドルに前のめりになって信号待ちしてるの。
でも信号は青なの、待ってるのは信号が変わることじゃなくて痛みが引くこと。
何回、学生に追い抜かれながら振り返られたことか。
大丈夫…大丈夫よおばちゃんちょっと間イタイだけだから…助けてもらうほどのことじゃないから行って行って…話しかけられても今は声出せないからお願い行ってね…
心の声でこうゆーてるのが伝わるんですかね、学生はためらいながら見捨ててくれます。
いいんですよ、正解ですよ、ヘルプマーク付けてますけど助けて欲しいのは今ではなくて倒れた時です。
ほとんどの場合は見捨てていただいて結構なんです、激痛が走ってるだけなので。
痛みの波が引けばもう信じられないくらい元気ですから。
痛んでる時は手でなにもつかめないだけなんです、だから一時停止してますけどじきに再生しますんでね。
ポーズボタン押してる状態だと思っていただいて結構です。
若い優秀な患者なんでそろそろハンドル操作とか痛くても出来るようになると思います、そのうちにね。

「どうだった?」
「ん~…便秘も吐き気も改善されないけど、痛みに効いてはいると思う。日中に起きとくのがしんどくてどうしても昼夜逆転になる日は度々あるけど、これに関しては仕方ないかなァ…。3日4日前から朝の食欲が戻ってきた感じ。食べれるかどうかは別として食べたいって思うようになってきたからだいぶ身体が副作用に慣れてると思う。あともうちょっと便秘と吐き気がどうにかなればラク」
「そっか~…吐き気止めはこれ以上増やさんほうがええからこのままで、便秘改善のほうしよか。全然出ない?」
「もともと毎日3~4、5回は出てたから、3日に1回だとだいぶ便秘」
「毎日か…そりゃ毎日出るようにはなかなか出来んなぁ…毎日っていうのは無理やで麻薬はどうしても」
「希望はせめて2日に1回」
「ん~…硬くて出ないカンジする?」
「便意は催すけどなかなか出ない、てカンジやからマグラックス足したらいけるんちゃうかな」
経験ってすごいよね、数々の排便コントロールと下剤に浣腸まで使うともうウンチを操るための薬剤の名前が出てくるようになるね。
もうそのヘンの整腸剤ごときでは、てなレベルだから酸化マグネシウム使っちゃいましょう。

「トラベルミンにノバミンまで飲んでると眠気はすごいですよね?」
「日中は眠気との闘いですね。負けてほぼ眠ってますけど」
「そ…そうですよね」
さっきも診察を待っている間に気が付いたら待合室で身動きひとつせず完堕ちしてまして。
虚無僧のごとき睡眠だったので、眠っていたことに自分でも驚きました。
今はそれが出来る恵まれた環境なんだけど、仕事することになったら今後がツライよねぇ。

今は鎮痛薬の調合もなんとなくリズムがつかめて、やっと病院に行くまでの期間が伸ばせるようになりました。
大学病院はもう一日が潰れちゃうから大変なのよ。
「今日、混んでます?」
「混んでます!と即答できるほど混んでます!」
呼吸器内科の受付のバブル嬢は、声がデカくて明るさがしつこい!(褒め言葉です)
「時間かかる感じ?」
「かかりますねぇ~今日は検査のほうは入ってなかったですか?」
「あるけどもう検査、先にしちゃってん」
「あら~!現在10番目ですのでね~1時間やそこらでは絶対に呼ばれません♪」
明るい…なんて明るく順番が来ないって言うひとなんだ。
「うわ~残念!ふ…でもじつはまだペインが残ってんねん」
「そしたらペインのほうが先かもしれませんよ~!」
「どうしよ~じゃペイン行っちゃおうかな~♪」
「はい♪行ってらっしゃいませぇ~!」
居酒屋のアルバイトより威勢が良いバブル嬢、会話を楽しむタイプ。
コロナでひとに飢えてるからもう会話弾んじゃって弾んじゃって。







by yoyo4697ru980gw | 2020-12-22 23:02 | 笑道:サルコイドーシスのススメ | Comments(0)
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