ハルノオトズレ

私は今年ほど春の訪れを待ち焦がれた冬はなかった。河原に野蒜を見つけてからというもの、案外近くに竹林を見つけてからというもの、ハルニナッタラノビルガホレル…ハルニナッタラタケノコホレル…とタダ食材の収穫を楽しみにこの冬を越した。今まで前もって楽しみがなかったからって冬が越せなかったことはないが。しかしその訪れを自分から待った春は、今年が初めてであろう。これまでの5年間は、変質者出没につき外出を控えるようにとの文書がポストインされ、地区長さんが春の訪れを知らせてくれた。初年度は「へ…へ…へんしつしゃぁあぁぁ??だとぉおぉぉ??行かない、買い物行かない。」とバビっていた私も今では「そんな季節になったんだねぇ~…午前中に買い物するか。」という強さを身につけた。…慣れってコワいね。

「今日、暑いなぁ…もうちょっと陽が落ちてから行こ。」
部活を終えてマクドごはんから帰って来ると、前日から約束していた「タケノコホレル」に行こうと言う私にチョモが待ったをかけた。太陽で疼くのか?逆だろ?ヤツは只今、足を痛めている。痛いなぁと思いながら走っていたら「千徒君は走るのやめて休憩しとき。」とドクターストップをかけられたそうな。最近の陸上は休憩さすんだなぁ…私、あんなに足グネったのに…。「それでも走れ」という無言の圧力があったもんである。記録更新って意地で出るもんだと思ってた。走るなと言われた日「今日…コーチに走るなって言われた…足が…遅いからもう走らんでええって…」と呟くチョモにミズオは言った。
「うそっ?!なんでっ?!リンゲンやろっ?!」
「…リンゲンやで?なんで?」
「こないだ中学校に行ってん、みんなで。そん時にリンゲンと話したんやけど、『センセー、千徒チョモって知ってる?一年の~。ミズの弟みたいなもんやね~ん。』て言ったらリンゲン『あ~千徒君な~あのコ、足速いなぁ~』て言ってたんやで…速いって言ってたのに…リンゲン…」
「リンゲン『千徒君は走らん方がええ、今日は走らんと休んどき。』ゆぅてん。」
「ずっと痛いゆぅてたから痛そうに走ってたんやろ…。それ見て『走らんほうがええ』やろ?遅いからもう走るな、は、ゆぅてへんねやろ?どうせ。」
「ゆわれてへんで?」
「もーーーーーーっ!!なんやねーーーーんっ!!」
高校の色に染まってもはや千徒家のイロを忘れたか。
「おかしいおもたわ…リンゲンそんなんゆぅてへんかったもん…速いんやろ?チョモ?」
「速いで。」
故障するのが。

私が「ささら」に没頭している間、チョモは「タケノコホレル」の目星を付ける。竹林を縦横無尽に歩き回り頭を覗かせている竹の子供に目を凝らす。
先日「ささら」を買いに行ったら売り切れていた。ささら、大人気。「じゃぁ作ってみるか」と思って竹林に目をつけた。「タケノコホレル」に行くついでにやれるじゃないか。割いた竹を束ねて縛ったものが「ささら」なわけだから、竹と針金さえあれば出来る。ような気がする。もっと手間を省いて「ただ竹の細い枝を束ねて縛るだけ」で「ささら」が出来ないものか。やってみる価値はありそうだ。
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竹の細い枝を集めたらいいのだ。その集める時の手間も省けそうな気がする。
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一本の竹から枝を取れば、あっちこっちの竹から枝を集めなくったってこれ一本で済むではないか。
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枝を切り取っていった、指にかけて使用するタイプのフザけたノコギリで。(倒置法)私は黙々と。(ウチ倒置ウチ倒置法)
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あっつー間に終わったので主目的である「タケノコホレル」を始める。目星をつけていたチョモホレターが場所に案内。「タケノコホレル」を楽しむひとを「ホレター」と呼ぶ。「タケノコ」の部分はとくにいらない、付けたきゃ付けたらええやんくらいで。べつにタケノコじゃなくったって何かを楽しんで掘ったらそれだけで「ホレター」である。掘っているホレターは掘り終わったらたいがいこう言うだろう「掘れた~っ!!」

チョモホレターはもう一人のホレターを待ってはくれない。
「くぐって。」と言い置いて去る。
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くぐってと言われてもなぁ…この高さは迷う高さだぞ。上か、下か。ピョンと飛べない高さではないが…思いっきりコンパクトになってジワジワとくぐった。だって飛べるのは確実だが着地が不安だ。もしバランスを崩すなどしてそこかしこに突き出ている日本刀で斜めに切り落としたような竹に、刺さったりしたらヤだから。

「こっちこっち!」
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ホレターよ、こっちこっちと簡単に言うけどな、道はどこにあるんだ。
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意外に掘れた~!

もっと収穫したいから探しに行こう、と竹林を出て竹の匂いを辿ってゆくと、そこにはなんとも魅力的な鳥居が。
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「チョモ~!入って行けるみたい…行ってみよう。」
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一歩入ると、そこは不気味なほど暗かった。
ゾクゾクするね…季節が早いけど。
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点いたところでこれっぽっちの明かりが何の役に立つのかとは思うが、点くのか点かないのかは心配だ。

暗闇を抜けた突き当りには、お社があった。扉は閉まっていたのだが一か所だけガラスが割れていたのでそこから覗くというバチアタリな行動で確認したら、数体のお狐様が祀られていた。ぉおっ…とちょっと前に読んだ文献のことを思い出した。それは「憑きモノ」の研究書。その昔、人間には狐が取り憑いていたものだが、いつから人間には狐が憑かなくなったのか。「現代人、狐に拒否られる」というテーマである。私が勝手に設定したテーマだけど。現代医学が精神病と分類するものを昔の人々は「狐憑き」と言った。現代人は「抗うつ剤」を服用し、昔の人々は「お祓い」をした。興味深かったのは「お祓い」によって「憑きモノが取れた」状態になった人が「元に戻った」ことである。それも「取れた瞬間」に「はて?わしゃ一体ココで何をしとるんじゃい?」といった感じで。「原因を取り除く」という医学の原点をみた思いがした。脳内神経伝達物質のバランスの乱れを抗うつ剤で整えている場合じゃないぞ、現代医学。時間だ時間、必要なのは時間なんぢゃないか?どんなことがあろうとも必ずや人体はそれに耐え得るタフさが備わっていることを本人が知る時間を持てるかどうか。投薬治療ではなくお祓いをススメているって意味ではないけれど、昔の人々の例に倣って「憑きモノは必ず取れます、その時が来れば。」と言ってみるのはどうだろうか。無責任って言われちゃうかな。「その時」を縮められるかどうかが、医師の手腕である。なにも処方箋を書くだけが医者の仕事ではないではないか。たまには「その時」を一緒に待つ医師が居てもいいではないか。ダメかな。ダメなんだろうなぁ…みんな忙しそうだもんなぁ…アタシ、結構、待つタイプ。散歩とかおしゃべりしながら、いつまでも待てるタイプ。どうでしょう、一緒に。待ちませんか、医者でもないけど。あ・ちょっと待って…医者側の目線でフいてみたけど…憑いてるの、アタシかも。じきに取れるから、気にしてないけど。

突き当りのお社の柵には何故かキッチンハイター。
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念のために書いておくけれど、近辺にキッチンはありません。

柵を越えた所にタケノコを発見したホレターは、もちろん収穫した。バチアタリと…呼びたくばお呼びくだされお狐様。アナタしか見てはございません。「タケノコホレル」に憑かれた私に、これ以上憑きたくばお憑きくだされ。こんなにも待ちわびた春の旬を、私は食さねばならんのです。喰ぅて供養せねばならんのです、この私の求めるココロをば。

4分の3はくらいはほとんど皮であったタケノコ。
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ナベにプカプカ浮いているのではない。ギッシリ、こんなに収穫できたのである。…うれしい。
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こんなに大量の土佐煮を煮つめたのは、生まれて初めて。…たのしい。
私の命とするために、タケノコの命を、いただきま~すっ!…しあわせ。
お金をかけなくても幸せになれるという証明をしたことに免じて、許してくださいお狐様、ね?
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by yoyo4697ru980gw | 2009-05-01 09:13 | +knowing+ | Comments(0)  

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