ノーちゃん

「ノーちゃん、知ってるやろ?」
「だれ?ノーちゃん?」
「ノーちゃんよ、ノーちゃんやがな。まぅ、絶対知ってるでノーちゃん。僕の横におるノーちゃんや、ゆぅとったがな。今年も同じクラスや。」
「あーーーー。ノーちゃん。チョモの横に配属の?」
ノーちゃん。
彼女は、我が子ヘイポーと同じ『学校寡黙症』の生徒である。学校で一切の会話をしない、というコミュニケーション障害である。

私はいまだに我が子たちの学校行事何もかもをムービーで撮っている。そしてその模様を編集し、遠く離れた九州のイネさんに送っている。イネさんはそのテープを、私のココロを育ててくれた祖父母(イネさんにとっては父母)と一緒に観賞しては「ううう(泣)あのヘイポーがこんなに大きくなってぇ…(泣)あ、走るの遅い…、あ、…小さいなぁ…、ううう(泣)小さくてどれかわからんけど、大きくなってぇ…(泣)」と「笑いながら、でも泣きながら、すんごく忙しく今みてるのよ~」と、よいんだかわるいんだかの感想をメールで実況してくれた。ヘイポーの発達の遅れは早くも生後3ヶ月から顕著で、小学校入学の年まで色々な病院や施設や訓練に通った通った相当通った。とうとうお金が底をついてしまい、脳の検査を受けるお金が予約を入れた日に用意出来ない、ということにまでなったことがあった。私は、離婚して自分の生活だけで手いっぱいという実母のコケさんに「すんませんが脳の検査に1万かかるので1万円ください。返すアテがないので、恵んでください。」とお願いした。近所にコケさんの妹であるイネさんが住んではいたが、既にイネさんからも払えない水道光熱費諸々3万円を借りており、イネさんは「あげるから。返さなくていいからね。」と言ってくれたものの、事実踏み倒してしまっていたので、その上に1万円の上乗せをすることが出来ず、金が無いとは知っていながらコケさんを頼らざるを得なかった。職と貯金が無いコケさんには時間がたっぷり余っていたので、病院に付き添うわと言って1万円を持参し1時間かけて我が家にやって来た。「アンタたちは1万円、てお金が用意出来ないの?!おかーさんでさえ、あるのに!!」とコケさんは「親ともあろう者なのに情けなか娘」に大変ご立腹し、泣いた。泣くほど情けないことか…と衝撃を受けたのであるが、コケさんが泣いていた理由は私の情けなさではなかったのを知った。…まァ、その当時は私の情けなさに泣いて呆れたのだと思っていたのだが、病院に向かう車中でコケさんは私にこう言ったのだ。
「ここに来るまでの間ね、運転しながら、ヘイポーが大きくなったら『アンタは小さい頃いろいろ問題があってねーその度にママは病院に行ってたんよー、バァバに借金して病院に行ったんよー。』ゆぅて笑い話にして聞かせる日がね、これから来るやろうかーと思いながら来たのよ…。」
私はとにかく病院に急いでいたし、何としてでも検査のために眠らせなければならなかったし(完全に眠らせなければ検査が出来ないということで前回失敗していたのである。睡眠剤をミルクに混ぜて飲ませるのも可能だがこの薬代がもちろんかかるので自然睡眠で頑張る気だったのサ)返します・返します・時間はかかるが1万円ちゃんと返しますからね、と心の中で急いで誓っていた。今振り返ってみるに、コケさんにも私にも、あの頃、出口がみえてなかったのだ。解決策がないまま、とりあえず検査異常なし・とりあえず検査特になし、の繰り返しで「一体どうせぇ~っちゅ~ね~ん」という心境の只中にいたのだ。このまま出口が見えないんじゃないかと思う不安が高まり、コケさんは泣いていたのかもしんない。いまもって解決策があるわけではないのだが、あの頃と違うのは「不憫でならない娘」がちゃっかり余裕があるということである。経済的にという意味でなく精神的に。いろいろな人との出会いがあって「出口が見えないダケのことやないか~い(ワイングラスカチーン)♪」と思えるような母になったことである。私の頭の悪さに出口が見えたことあるか?ないね~。私の貧乏に出口が見えたことあるか?ないね~。私のくだらなさに出口が見えたことあるか?残念ながらないね~。出口が見えないことに問題あるか?あ~らま、ないね~。出口って…見えたためしがない。てコトが、私が見た出口だったんである。

我が子のムービーを撮っていて気がついたのだが、チョモの横にいつもいつも同じ女の子が映っているのである。大きな行事の時には常に横にいる。席替えもあり班替えもあるのに、事あるごとに横にいるので私はチョモに言った。
「このコ、このコ。このコ、いっつも横おるやん。」
「ぁあ、ノーちゃん。一緒の班やから。」
「常に一緒の班ってわけじゃないやろ?」
「うん、まぁ…。一緒の班じゃない時もあるけど、こうゆう時はだいたい一緒やな。ノーちゃん、僕の横やねん。ノーちゃん、ヘイポーと一緒やねん、寡黙。」
「あぁ、それで。先生が一緒にしてんのやんか。ヘイポーのコト、先生は知ってるからな。ヘイポーの扱い方に慣れとうチョモなら、横におらしたら安心やん。」
「そうかなぁ…席替えとか関係なくやってる感じするけど…。」
「ヘイポーの時は先生に『クラス替えの時には配慮します』て言われたで?ヘイポーが唯一目を合わすコ、ずっと同じクラスやし。アンタ、適任やで、ヘイポーのことわかっとうし。やるなぁ、センセー!!ナイス配属!!」

そんなこんなで時が過ぎ、ちょくちょく横にいたノーちゃんが今年も同じクラス。すっかり『ノーちゃん探せばチョモがおる』的なポジションが定着していたが、6年生になり、男子は男子・女子は女子、という区別をされる機会が多くなってきた。チョモの『ノーちゃん頑張った報告』も、自分の目で見る機会がなくなりこのところ滞っていたのである。だから久々の『ノーちゃん』情報、すっかりニックネームが飛んでいた。ノーちゃん、6年生でも相変わらず言葉は発しないけれど、それでも「スピーチをする」という目標を先生と立てた。夏休みにスピーチの原稿を作成。2学期が始まり、いよいよ発表の時。
「ノーちゃん、絵、うまいねん。夏休みに書いたみたいで、バッチリやったで。文もちゃ~んと書いてあった。そんで、じゃぁスピーチをしましょう、てなってんけどな。やっぱりノーちゃん、言えへんかってん。ノーちゃんな…泣いて…おられました。」
「ノーーーーーーちゃーーーーんっ!!私はわかるで~~~~~~!!おばちゃんはノーちゃんの気持ちがごっっっついわかるで~~~~っ!!!!!!!」
「…な…なんや…まぅ…壊れたか…」
「て、ノーちゃんに、ゆぅといて。おばちゃんはノーちゃんの思いが痛いほどよくわかります、とウチの母が申しておりました、とお伝えください。なぜならば、私はヘイポーを育てているからです。」
「…なんや、改まって…。」
「そうやねん。そうやねんそうやねん。ヘイポーもおんなじや。頑張りたいという気持ちもある、実際頑張る、話したいと思う、声を出そうと思う、声を出せると思う、声を出すと決めている、でもダメやねん。たったひとこと出すだけの私たちにしてみたらめっさ簡単なことがどうしても出来ない自分が悔しい、ていう思いがあるねやで、ヘイポーにも。それが簡単なことなんやって一番わかってるんがノーちゃんやねんで。だから涙を流すねや。わかってるから泣くねん。できるってわかってる誰よりも。誰よりも知ってるねや、自分のこと。」
ノーちゃん、ヘイポー。
私、あなたたちが話せることを知っている。みんなもね。
話したい気持ちがあるんだってこともね、知ってんねん。
あの子たちの何が、喉を詰まらせているんやろう。
自分が一番わかっていることを簡単に口にしない彼らと、自分のわからないことだから口に出来ない私たちと、いったいなんの違いがあるというのだろうか。言葉にすることを選んでる、そんなのみんな一緒。選んでるトコが違うだけで、こうも生きにくい道を進んでしまっているノーちゃんとヘイポー。時々、彼らの選んだ道のほうが正しいのではないかと思うことがある。チョモと私がジョーダン言い言いフザケ合っている時に、横でニタニタ微笑みながらヘイポーがこっち見てる時なんかに。ご先祖様みたい。ええやん、話さないならそれで。言えなんだら無理に言うこと、あらへんやん。ノーちゃんウチに遊びおいでよ。ヘイポーと私と、無言で楽しもうゼ。思わず言葉が漏れちゃうような、楽しいこと考えようゼ。
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by yoyo4697ru980gw | 2008-09-22 23:14 | +ミルニング+ | Comments(0)  

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