にっこり

休日ものすんごく長蛇の列のレジに別荘を買うために並んでいると、その店のレジは10レーンくらいあったのだけど、レジ前のガムとか電池とかが入っている陳列棚を挟んだ隣の列の中の見知らぬ女性と目が合った。その時に私たちは互いにちょっとだけ微笑んだ。まっだまだ清算の順番が回ってこないと踏んでいた私は、レジには背を向け、真後ろに一緒に並んでいた我が子二人と会話をしていた。ちょっとだけ離れた位置の隣の列のその女性は、赤ちゃんを抱っこヒモで前に固定した状態で、こちらの列のほうを向いて順番を待っていた。私たちはほぼ同じペースで進んでいたので、ずっと隣り同士という位置関係にいた。

レジに出来る列というものは必ずそうなるのだが、長くなれば長くなるだけどんどん詰めていかねばならない。車でいうトコロの「車間距離」という距離(人間距離)を、とにかくギリギリまで詰めなければならない暗黙の了解みたいなものが出来てくるのだ。私は、この「人間距離」なるものを決して詰めないタイプの客である。「べらぼうに空けてる」ということはないけれど、隙さえ突けば一人くらい入れるようには空けている。それは、私のカゴが前の人にあたったらヤだから。誰しも長く待たされればイライラしてくる。だから人ひとり分の余裕を物理的に作っておいて、それであわよくば気持の余裕をも得たいのだ。
私は、レジが進んでいても気にせず後ろを向いてナキヒーと別荘について語り合っていた。
「ダメ、この別荘は私が建てるんやから。ナキヒーは手伝わないで。」
「えー…みんなで建てたらいいやん…」
「ヤだヤだ。ひとりでじっくり建てるんやからー…」
「今日中に出来上がらんかったらどーするーん?」
「いいんや。何日かかっても、ええねや。いいかね、創造という工程は孤独な作業の積み重ねなんだよ…」
「コウテイ、てなに?」
「帰ったら辞書ひきなさい。カキクケコのコの前半くらいに書いてるから。」
「ゼンハン、てなに?」
「サシスセソ、のセの後ろのほうに書いてる、そっち先にひいて。」
そんな会話をしていると、ナキヒーの後ろにいたもうひとりの我が子チョモがジェスチャーでこう言う。「詰めて詰めて。」軽く握った手の甲をこちらへ向け「最初はグ~」みたいなアクションをしてからに、指先をチョイチョイと払うのである。「おいでおいで」の逆再生。私はこれをトコトン無視こいて、常に人ひとり分の余裕を確保しておいた。その態度に業を煮やしたチョモが私にとうとう、
「まぅっ、なんで詰めへんの?前に行きぃや!」
と意見した。

ハタ、と気が付いたことがある。私はこうして我が子と長蛇の列に並んで清算を待つようなことが、今までなかったのである。もちろん、私個人では何百回でもあるのだが、ここ4年5年、我が子は私と遊ぶことはあっても「買い物に付き合う」なんてひちめんどくせぇコトには興味を持たなかったのである。買い物のあとに遊びに行く予定があったから今はたまたま付き合うかたちになっただけで、これが遊びに行く予定のない単なる買い物だったら、一緒にいるなんてことはなかろう。そうか~「買い物についてのクセ」を、お互いに知らないんだなぁ…としみじみ感じた。こりゃ、説明がいるんだな。しかし、私は説明するのがめんどくさい。いや、めんどくさくはないけど、躾の面でめんどくさい。先入観を植え付けることになるではないか。人の考え方はそれぞれである。チョモは「レジが混み合ったら詰めるべきだ」と考えて意見しているのである。私は別に「順番が早まるわけでなし」と考えている。それをどう捉えるかは、個人の自由である。
「私は、詰めません。順番が来るまでは。」
欲しがりません勝つまでは、みたいな。こりゃ、戦争か??

このやりとりを見ていて聞いていてなのか、それともひとつ前のナキヒーとの別荘建築計画会話を見て聞いてなのか、先出の女性が微笑みを通り越したやわらかい笑顔で私たちをご覧あそばす。私は、もしや知っている人ではないかとじっくり彼女を見てみたが、やはり知らない。けれどもじっくり見たものだからそれとなく視線をそらすにはバツが悪くて、満面の笑みで目を合わせてから、またナキヒーとの建築計画会議を始めた。
「3パターン、作れるから~。3人いるし~、それぞれを建築するってのは?」
「いいねぇ~!ボク、これ。」
「えーーーーっ!私も、それ。…チョモは?」
「どれでもいいから。余ったヤツで。」
「じゃぁ、希望はナイわけやな?」
「ナイってことは…ないけど…」
「どれ?」
「…もぅ…イイよめんどくせぇ…」
「おぬしも、コレか??」
「ソレや…」
「アカンやん…困ったことやでぇ…?」
「んじゃ、チョモは余ったんでええゆぅてるし、ナキヒーがあきらめたらええやん。」
「イヤ。」
「イヤ、てゆーんがイヤっ!」
「イヤってゆーんがイヤ、てゆーんがイヤー!!」
「まぅが先に作ったあとで壊して、おんなじのヒーが作ったらええやん。…ボク、待つから。」
「…そうする??」
「そーする~。」
「チョモ、いい子やなぁ?」
「いい子やなぁ、チョモ。」
この会話なのか??彼女は、やわらかい笑顔を通り越して、ニコニコにっこりして私たちを見守っているのである。うぅ~ん…。「チョモとヘイポーを微笑ましく見ている」にしては年嵩がない。私よりもきっと若くてらっしゃる。彼女と、その抱いている赤ちゃんの姿のほうがむしろ「微笑ましい」。なぜにゆえに彼女は私たちを向こうのレジからニッコリ見守るのだろうか。心地はよいが、疑問が浮かぶ。

「楽しみ~♪」
「今夜、楽しみ~♪」
と言い合うヘイポーと私を、彼女はやっぱりニッコリ見守った。私たちのレジの順番が来た頃、向こうのレジの彼女も順番が来た。レジスタッフが背向かいになっているので、私たちはここでも向かい合った。中に4人のレジスタッフが居る状況で。別荘の箱がデッカイ袋に入れられた。この店は万引き防止のため「店内での開封を禁ず」という内容が書いてあるガムテで袋の口をこれでもかと封じる。今、別荘が封鎖された。
「開ける時も、楽しいな?」
と言うとまたもや、彼女がこちらを見てニッコリとした。私は店を出る時、チョモにこう呟いた。
「チョモ…さっきの…レジに並んでた時からやねんけど…」
「赤ちゃん抱いてた女の人やろ?」
どうもチョモも気になっていたらしい。
「あ、気付いてた??」
「うん。だってやぁ、ずっとニコニコしてこっちみてたやん?しかも、なんちゅーの?おばーちゃんが孫みるよーーーーーな、眼差し、ちゅーの??まぅの知ってる人かな~って思ったけど、まぅも見ててわかってたみたいやし、知り合いやったらまぅ話し掛けるやん?話しもしひんし、知り合いちゃうねなーでもなんであんなにニコニコしてんねやろ??て、ずーーーと思っててん。」
「…そうやねん…。」
そしていろいろと思いを巡らしてみたが、チョモがこう推測した。
「僕たち、別荘しか持ってなかったやん?コレじゃない??実は同じモン、あの人も持ってるんちゃん?あの人、レゴマスターでや、極めとんねん。コレほんまは一晩で作れるような代物ちゃうねん。…で、まぅたち『今夜つくろな~』とか『ひとりで作りたいー』とかゆぅてたやん?今夜だけじゃ終わらんこと、知っとんねん。ひとりでなんか作れるわけがないのにあの人たち知らんねんな~、でも水さすのも悪いな~言えへんな~、てコトで微笑むしかなかった、みたいな?」
「ええー…コレ…そんなに難しいんかなぁ…?一番カンタンそうやけど?なんせ4000円やし。」
「作ってみたら、はっきりするわ。」
「…ぅん。」

で、着工。
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一晩で完了。
レゴに関しての微笑みでなかったことが判明。

眉間にシワよせた兄チャンにガン飛ばされても「なによっ?!」て思うけど、ニコニコと長いこと無言で微笑みかけられても「なによっ?!」という感情が湧き上がってくるものだと言うことが、わかったね。
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by yoyo4697ru980gw | 2008-05-26 22:04 | +ミルニング+ | Comments(0)  

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