昭和術

D艾より1年ぶりに勧誘電話があった。

『艾』はガイと読む。
五十のことを艾といい、艾はヨモギのことで、髪がヨモギのように色褪せ白くなる年齢という意味である。
よって「D艾」という呼称は高級化粧品会社Dから勧誘電話をかけてくる50代女性のことで、私が勝手に付けている「艾」という敬称は、去年からの呼び方である。

私は社会人になってから今日まで個人的にコスメ研究をしているが、その目的は『チープで優秀』なコスメを究めることであって、基本的にブランド物や高級化粧品会社の商品には見向きもしない。
白斑問題によって女子の皆さんに於いては「一流メーカーだから高くても安心」という盲目的認識はもはやないだろうと思う。
私は経済的な理由から「一流メーカーてだけで高い」と感じて女を37年間もやってきた人間で、きっとネームバリューだから無名の企業で似たような成分を使っている所を探せばもっと安くで手に入れられるハズだ、という信念で成分表記の羅列に目を通してきた。
その思い込みが功を奏してと言うべきか、高級ブランド志向でないために、コスメにかける金額が同じでも次から次へと湧いて出る低価格な二流・三流ブランドのコスメ商品ならば、数量を豊富に試すことが出来、結果、たくさんの商品から得たデータにより殆どの化粧水で重要な成分が『水』であることを突き止めた。
有効成分や独自開発の成分がいくらあろうとも、『水』と喧嘩するような成分は肌に働きかける力が期待出来ないということだろう。
ま・成分について研究している専門家でもなんでもない私は、本当のトコロは何もわかっちゃいないがこのことは朗報である、化粧水のポイントである『水』は日本では長らく『タダ』という認識が根付いていたほどの成分だ。チープが泣いて喜ぶではないか。よきかな・よきかな。

このチープコスメの研究は、たま~にお金に余裕がある時「高級に決まってんだろうなぁ」という製品の実力がいかほどかという研究に着手する。
そうして試してみたのが、女優をイメージキャラクターにしてCMが流せるほど広告費に予算がつぎ込める高級化粧品会社Dで、2回ほどの研究ですでに万単位のお金が飛ぶことからとても継続するには至らず、また、万単位のお金をかけるほど納得のいく即効性のある効果は実感できなかったことから、私はDに見切りをつけた。
私がコスメに大枚をはたく場合に最も重要な効果は『即効性』である。
「使い続ければ良くなる」といった商品が、無理をするほど高価であれば、飲まず食わずでも使い続ける頑固な意思でもない限り実際問題的に使い続けることが出来なくなり、結果的に高い金を払ったダケで何の効果も得られない。
高いけどもこの2日間だけキレイだった、という即効性があれば、その2日間に対しての価値に代金を支払ったと思えばいい。
キレイだった2日間で商談がうまくいったとかね、プラスになったことがあれば高価な化粧品のおかげってことにすればいいし。
この場合、即効性のある何かの効果が本当に出ているかどうか、というのは関係ない。使用者本人が即効性の何かを感じているかいないか、というのが重要である。
心理的に私はDの商品からプラシーボ効果も得られなかったということなのだ。
その原因が高額商品だということがハッキリとわかったので、私はDの商品を買い続ける気がなくなったのである。
「高いだけあってやっぱイイわね~」より「高いくせしてなんともねぇな」と思う性格をしていた私が悪いんだろうけども「心もカラダもキレイになりましょう」なんて内面の美しさもセットにして声高にアピールしてる美容業界も無責任だよね。
「高かったら買う気が起こらへんわ」と心理的マイナス要素の理由をハッキリと述べる私の心の負担を考えずに、化粧品が1本12000円とか簡単に言うんだから。
「キレイになりたいと思いますよね?」と言って勧誘をしてくる数々の美容業界の電話勧誘はまず一回目で私はこう断る。
「そんなん思ったら私、まず外側をキレイにしてもダメなんだよね。長年の不摂生と暴飲暴食で内側からキタナイから。キレイになろうとしたらまず生活改善が先だからね、何ゆぅても出る幕はないで。生活改善できるようならとっくにしとるからね、死なにゃ治らん」
サプリメントじゃ体質改善じゃ、デトックスじゃ老廃物のなんじゃかんじゃと、何をゆぅても出る幕はないと言っても、たいてい電話口の勧誘嬢は私の意見は聞かなかったことにして一方的に自分ペースで話し続けるので「はいはいはーい、はぁ~いぃ~」と後半はタラちゃんでかわいく一方的に電話を切る。一方的には一方的で対処。
すると多くの場合は2回目の勧誘は無い。

しかしD艾の電話勧誘は2回目があった。
それどころか断っても断っても定期的に行われる。
D艾に類い稀なる根性がおありか、私に電話したことを覚えていないのか、こうなったら二つに一つだと思う。
D艾の電話勧誘こそが、勧誘業界では2000年あたりから急激に廃れていった『畳み掛け話術』を継承するニュアンスがあるため、古き良きクドい勧誘問答を目的に時間がある時に、商品は買わないのだがD艾としゃべることにしている。
ただ惜しいことにこのD艾、話術の駆け引き力がやや低め。
畳み掛けの根性は素晴らしいが、惹きつける力がいまいちである。
この『畳み掛け話術』のポイントは相手を適度に気分よくさせながら、相手の購入意欲の無さを心からすっとぼけてスルーし『何で買いたくならないのかが不思議で不思議でたまらん』というキャラで畳み掛けてゆくのが基本系である。
これにどう変化をつけるか、というのが個々の手腕に依るところで、勧誘業界の流行で言えば『金銭感覚系』がしばらくは幅をキかせていた。
電話勧誘業界も訪問販売業界も一斉にこの応用編を好み、『主婦の仕事を給料換算すると20万』や『この製品を一日の使用分で換算するとたった300円!喫茶店のコーヒー1杯分くらい』なんてな言い回しが重宝された。
専業主婦だから買う余裕なんかないわ、てな拒否反応があれば『アナタのしている家事は給与20万円相当!よってアナタが欲しいならば買うがよろしい!アナタにはその権利がある!』という金銭感覚のすり替えね。
だいたい月々の支払が5万以下のローンを組ませたいような商品の時に、この専業主婦20万相当を出してくる。
専業主婦の給与換算相場もアベノミクスでだいぶアがったかもしれないが、それでも30万相当とは言わないだろうと思う。
専業主婦が20代前半の新妻だった場合、働いていない嫁の家事の換算額が、就業率が低い昨今の夫の月給を超えてしまったらいけないからである。

30代や20代の勧誘嬢は、畳み掛ける根性もなければマニュアル通りの勧誘でマニュアル文例を使って流すために魅力そのものに欠けるが、D艾には「キャラ」がある。
私はD艾との会話では『若くで結婚したから出産も早く、また我が長男のママ友たちの殆どが『一番下の子』という条件により、10歳以上年上の女性とばかりいるので『アンタ~今は若いからそんなん思わへんやろけどな~アタシが言うことちゃんと覚えといてこの事か~て後で自覚しぃや~』と老化の脅しをかけられているため、衰えの予備知識はバッチシ」というキャラ設定にしている。5年を費やしてコツコツとこのキャラを作り上げた。
D艾は私のこのキャラに対し、「その今の若さを保つため」に我が社のエイジングケアを勧め「10歳以上年上のママ友の中にもキレイなひと」ているよね、と、エイジングケアをしている人としていない人の違いは明らかと説き、やってる人とやっていない人の違いの例として、4年前に私に電話でこう言ったのである。
「私ねぇ、もぅトシ言っちゃうけどねぇ、48なんですぅ、こう見えて。」
「見えないけどね」
即答だった。突っ込みが。
私はもちろん、D艾との会話を楽しんでいる5年の間、一度もD艾にお会いしたことはない。声のみの付き合いで、見えて、ない。
「見えないってねぇ、本当によく言われるぅ~!これねぇ、我が社のエイジンクケアをね続けてるからなんですよね、やっぱり違いはソコ!」
本気だろうか?わざとだろうか?一瞬だけど私は深く考え込んだ。
私の『見えないけどね』は『視覚でアナタという人の外見を確認していない』という意味で言った言葉であるが『とても48には見えない』という意味でハナシがすすんでいる。
あんまり間を取っても…いぃや、まったく取らなくてもD艾はコレでイくんだろうな、という結論しか出なかったので、私は適切に相槌を打つことにした。
「若い声してるから声だけ聞いてると同年代かと思うわ~。そんなに私より年上やってんや?敬語にしたほうがいい?」
「もぅ~まぅさんホンマ関西人やわ!おもろいわ~っ!」
おもろいのはアンタや。
「私も、もともとは関西人やねんよ~ふふふふ~」
私はもともとは九州人やねんよ。
D艾の笑いのツボって関西人独特なのだろうか?
私が知っている関西人には無い感覚みたいだが。
ここ数年は1年に1回、D艾は標準語で勧誘の電話をかけてきて、会話の途中で関西弁になり、年齢をカミングアウトする。
言い方は毎年4年前と一緒だが、1年経っているので、49歳になり50歳になった。
そして今年は自動的に51歳になったD艾。
D艾はなぜに毎年、ご自分のトシを暴露していることを忘れてしまうのだろう。
私は計算が苦手も苦手だが、去年50歳だった人が今年51歳になることぐらいは計算出来る、こう見えて。
しかし毎年毎年D艾が今年の重大発表みたいに告白するから、性懲りもなく私もトップシークレットの機密事項を前に迅速に任務を遂行する。
「わ~51?むっちゃ若いやん」
「そうでしょう?本当にね、エイジングケアのおかげ~」
警戒レベルが最終的な数値を叩き出すのも時間の問題だな。

D艾のこの「キャラ」だけで十分ツカミはオーケーであるのだが、肝心の「商品を売る」ための話術が足りないので、私はかれこれ5年はD艾から商品を買わずにいる。
いつもいつも同じパターンで会話が終わるので、そろそろ何か別パターンをもってキたほうがいいと思うが、他のひとにだったら売れているのだろうか。D艾が歩合給ならとても心配だ。

「3000円くらいだとしたら、どう?」
「3000円“くらい”ねェ…ホンマかな?」
化粧品会社の『美白コース』とか『エイジングケアコース』なんて銘打ってる一連のシリーズものって携帯電話会社の『無料通話分にて実質いくら』て金銭感覚と似てんだよね。
1本で約2ヶ月使っていただけますからこちらが半年かけての肌質改善でアレアレとソレソレとコレコレでトータル28300円ですね、これは1ヶ月分に換算しますとだいたい3000円程度になりますぅ~、て言うの。
結局ね先々までおたくの化粧品に縛り付けられて約3万を前払いをさせられんねん、使っても使わいでも。買う以前、商品到着以前の、契約の段階でね、そうゆう約束をさせられてるってコト。必要なダケ売るってシステムではないの、前もって売っといて使わなかったのはアナタの責任、てことにする。しっかりと使っていただいたら肌質改善されてとてもキレイになりましたのに~、というイイワケもキくから次が売りやすい。
ほんで1ヶ月換算にして3966円を「3000円程度」て言うよね、厚かましい金銭感覚やで、それ。

「スキンケアに時間をかけるのは苦じゃない?いろいろ肌のお手入れはされてるタイプ?」
「苦だね。まったくかけたくないね、何もしなくていいタイプ」
「じゃぁ、朝晩ちょっとの時間で済むスキンケアだったら出来るひと?」
「ちょっと、ならね。『ちょっと』の共通定義なんてないけど私の『ちょっと』の感覚わかるん?」
「オールインワンの化粧水をやって~、美容液を気になるところにつける?そのくらい…だったら?まぅさんはそれだったら出来るひとぉ?」
D艾の特徴は私を下の名前で呼ぶことと、語尾である。
文章にして書いただけではイントネーションが伝わらないが、スキンケア知識をふんだんに盛り込むダメ出し型のねっとりフレンドリーセールストークである。
私がやっている『ダメ』なスキンケアをまずは聞き出す。
ダメだろうと思われる手入れをこれでもかと挙げていかなくてはならないので、私のほうも大変である。
D艾に『お肌にとってすんごくダメなことばっかりしてるわ、まぅさん』て言わせなきゃなんないので、肌に良い事とかひとつも言っちゃダメ。
毎晩呑んだくれて明け方にヘベレケで帰って来て台所でカルキたっぷりの水道水を蛇口から直接ゴクゴク飲んだあと、基本的にウォータープルーフタイプのコスメを使っているフルメイクをそのままシンクで中性洗剤を泡立てもせずに塗りたくってクレンジンクしてるよ、3日に1回は米櫃を抱えて寝てるからビックリする~、くらい言っとかないと。

「お客様に還元の意味を込めて、コレとコレと、もちろん試供品も全てついて、今回はファンデーションも付いてくるのね、どう?すっごくお得だと思いません?」
「う~ん、今買えばお得ってのはわかったけどいらない」
「あら?どうして?ダメ?なにが?」
正しい。
正しい『畳み掛け』方式を踏むすっとぼけ反応。
あぁ懐かしい昭和のあのカンジあのカンジ。
これから畳み掛けに入っていきますよーの姿勢が嗅ぎ取れるあのイヤ~な感触。
ちょっと強面の訪問セールスが最初は低姿勢で話してくるんだけど、玄関先に招き入れてタタキに商品の入ったバッグを広げてアレコレ出して来て、いらんと断る姿勢を見せると急に態度を変えて脅迫になっていく、あのイヤ~なカンジと似てる。
「コレって脅し売りなの?ちょっと電話するから待っといてや、代わるから。」
ゆぅて110番しないと帰らない、あのカンジ。
訪問販売・電話勧誘に対する度重なる法改正などですっかりしつこさが鳴りを潜めたが、法に触れないイヤ~なカンジは畳み掛けセールストークの中にご健在。
私はそんなD艾に、なにがダメかをご説明。

「今ストックしてる化粧品がよーけあるし、それを使うまでは興味湧かないな。買っても使うのなんてずっと先になるしフレッシュさなくなるやん」
「い~えいえいえ、うちの製品はね、天然素材が防腐剤の役目をするので大丈夫なのよ~」
自然の摂理をご存知か?
新鮮なモノはすぐに腐る。
腐らないほどの防腐剤入り食材は、バクテリアも喰わない。
あのバクテリアでさえ食べ物と認めていない、てどう?
もはやそれは食品ではない、と思わんか。
天然素材が腐りやすいからいかに日持ちさせるかってことで人工的なことを仕事でいろいろやってる人がいるってのに、こんなことなら人間は何もやらんほうがえんちゃうか。人間って無力よね。

「あのね、私がトシを感じるようになってスキンケアに金かけてもええから肌をキレイにしたいわ~て気持ちになったタイミングで再チャレンジしてみて?今がんばっても私が心を動かされてないから無駄や思うで?答えはノーやな、買いたいと思っていないの。買いたいと思ってないひとはね、買わないよ。買いたいという気持ちになるように持っていかないと、無理やろうなぁ」
「まぅさんやっぱ関西人やわ~!ハッキリしてる!」
だから、産まれも育ちも九州やってば、戸籍上関西人になって19年。
「私も関西人やからわかるっ!やから私もクドクドしたこと言わへんわ!いろいろクドクドゆぅたけどっ!お互いに関西人やからなっ!」
うん、だから脈々と受け継がれた生粋の九州人だから。

私はよく『根っからの関西人』みたいな感想を持たれるが、純粋に宮崎人、こう見えて。両親もそのまた両親も宮崎人。宮崎に宮崎を重ねて宮崎をふりかけ宮崎をトッピングし宮崎の上に盛り付けた宮崎人です。宮崎で着飾った本日は足元に宮崎をあしらいました。そんな私からはどのような関西のエッセンスが抽出されているのだろうかか。漏れても宮崎だが。

兵庫県民になってからよく聞く場所の名前「くまのこどう」を、ついこないだまで「クマの子堂」だと思っていた。
いろんなひとが「連休でクマノコドウに行ってきて~ん」ゆぅて私にお土産をくれる時、なぜかそのお土産は和歌山マリーナシティのクッキー率が高かった。
狭いスペースのことを『猫の額』と表現するのと同じ感覚で、『クマの子』と表現するくらいの小さなこぢんまりとしたお堂があってね、「参拝」が目的かな。
観光地化されていないの。
クマの子のお堂だからって、かいらしいクマのキャラクターなんかをこさえてストラップとか売ってないよ。
お土産屋なんてお堂にはありません、なんたって世界遺産なんだから。
歴史ある建造物『クマの子堂』
帰りしなには、和歌山マリーナシティに寄ってってネ!
…そうゆうことだと、思っていた。
そしたら、いただきもののミネラルウォーターに『熊野古道』と書いてあったのである。
何本ももらったので何も考えずに飲んでいる時は気付きもしなかったが、ふとラベルを読んだ時に急に合致した。
「くまの、ふるみち。ふるみち、とは読まないか…もこみちぢゃないんだから…こどう?くまの、こどう?くまのこどう…クマの子堂?!へ?お堂ぢゃなくて?!」
…衝撃的だった。
熊野古道を知っている関西人に聞けば、それは5つからなる古い参詣道だそうで、皆のクマノコドウ目的は歩くことであるらしい。
クマノコドウへ歴史的建造物を見に行ってきた、と皆が言っているものだと思っていた「クマノコドウ行ってきてん」が『歩いてきてん』という意味だったなんて。
かように、私の関西人としてのにわか知識なぞクマの子程度ですねん。
知らない事が多過ぎて、毎日がひとより楽しいばい。
奇跡的に人生を楽しめてるタイプね、私。

来年、52歳になったD艾はどのタイミングで電話をかけてくるだろうか。
夏が終わって紫外線を浴びた疲れた肌をお手入れしませんか、というタイミングかな。冬って乾燥が気になりますよね、というタイミングかも。
それとも、今回は私の断り方が去年よりも「より買わない気」を醸し出していたのを察し、2年くらい冷却期間を置くだろうか。
どのタイミングであろうとも、私はもう今年でお腹がいっぱいなのでD艾をおかわりするつもりがない、こう見えて。
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by yoyo4697ru980gw | 2013-10-23 00:55 | +in the sky?+ | Comments(0)  

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