どうでもよいことを考えはじめたらキリがおへん どうでもえぇのについつい考えてまう どなたサンもその状態が「ミルニング」どすぇ

物言いし父は長柄の人柱 鳴かずば雉子もうたれざらまし

「あれ?今日は行かへんの?」
「どこに?」
「遊び。いつも行ってるやん」
「遊びじゃないわ、お稽古。ま・遊び…のようなモンではあるけど…もうすぐ検査やからな、ちょっと間だけでもおとなしくしとくねん」
「いつも通りにしといて受けなアカンで。そんなん誤魔化したって一緒や」
「アカン時は何してもアカンからなぁ…まァでもちょっとでもおとなしくして結果オーライならそんで万事OKやからな」
CT検査を翌日に控えているので、ボランティアの民舞お稽古は大事をとってお休み。
今のかかりつけであるD病院で私は、とくに運動を止められたりはしていない。
食事制限があるわけでも、投薬治療があるわけでもない。
病状が悪化しないように温かく見守られているのみ。
脾腫を起こす病気と思われる検査はすべてやったので『はて、何が原因だろうか』と、様子を見ている。
それなので、禁止事項もなければオススメ情報もない。
何かが起ればその時々に対処するのだ。

しかしえらいもんで、血液系の病気だろうからより鉄分の豊富な食材のほうを選んだり滋養強壮剤を飲んだりなんかする。
どうせ生きるなら健康に生きていようとするもんだね、人間って。

救急車で運ばれたついでに造影CTを撮った時の私は、緊急的にこの検査をしたようである。
自分では立てもしなかったもんで、自力で出来ることは何もしなかった。
どうやら、患者らしく身なりを検査衣に着替えてバリウムを飲み、機械に自ら横たわるようである。

検査室の待合のイスでTVを見ていたら女性検査士が高級なバナナ牛乳のボトルみたいなのをシャカシャカとシェイクしながら近づいて来た。
「以前に造影剤を使ってCT検査されたことはありますか?」
「あります」
「その時に副作用など出たりしましたか?」
「いいえ」
ドコの病院でもおおかた同じ印象を抱くのだが、検査士の会話のスピードって速くない?
私は、早口で聞き取りにくいとよく言われるが、自分が早口だからか同じように早口のひとの言葉が聞き取れる。
そんな私でも、検査士のスピードに後半はついていけない。
同じ説明を何度も何度もしている検査士のセリフは、市役所職員の年金取扱窓口の案内やコンビニ店員のいらっしゃいませこんばんはー同様、ヘンな抑揚が付いている。
それで、私が聞き取る時に挿入する読点の打ちどころを逃してしまう。

検査士は私に質問をしている間も高級バナナ牛乳をシェイクし続けた。
「前回の検査の時にこういったモノは飲みましたかね?」
「いいえ?」
その高級バナナ牛乳はどうやら私の飲み物らしい、ボトルには300mlとある。
「こちらはバリウムを100倍に薄めたものですので、とくに下剤などで出す必要はありません。出来れば全部飲んでいただいたほうがいいのですが、半分くらいでも大丈夫ですので」
そういってシャカシャカとシェイクしていたボトルのフタをパチと言わせて、私に手渡しこう言い足した。
「フタ、軽く開いてますので。おいしくは、ないですけどね」
100倍に薄めてあるにしては随分とコックリしたボトルの中身からは、ほのかなバナナの香りがした。香りと同等のバナナのほのかな味。なんなんだ、この明らかにバナナ牛乳に似せて思いっきり失敗しているバナナ臭。どうしてこんなにほんのりとバナナ味にするんだ。やるならしっかりとしたバナナフレグランスをつけて欲しいし、味もつけるならつけるでちゃんとバナナをキかせて欲しい。バナナじゃなくてバリウムが勝つ。誤魔化しきれないバリウムフレーバーのバリウムドリンク、ひとくちごとに嫌気がさすほんのりバナナ。いっそのことバナナはぬいてくれ、こんなに微かに顔を覗かせるくらいなら。後味で助けてくれるわけでもなく、最初の口当たりをまろやかにしてくれるでもなし。終始バナナ邪魔。空きっ腹に流し込むバリウムはちっともすすまない。
…マズい。
これまで飲んできた飲み物の中で、一番マズい飲み物は『どくだみ茶』であるが、どくだみ茶は、まだ曲がりなりにも茶であった。どくだみの味がする、お茶だった。
しかし私がいま飲んでいるのは、バナナ臭が邪魔をするバリウムである。
私はバリウムのせいで好きなバナナをしばらく嫌いになりそうだ、と思いながらバリウムを着実に一口ずつ飲んだ。
TVではドラマがやっていて、ジャニーズのやまぴーが眉間にシワを寄せていた。
私も今まさにやまぴーと同じように眉間をシワを寄せているのに、えらい違いだな。
やまぴーがその顔でいくら稼いでいるかは見当もつかないが、私はこんな顔になるほどマズいバリウムを飲む検査に1万円弱を支払う。
相変わらず一年中風邪を引いているような声でやまぴーが元気に芝居をしているのを観ながら私は「残していいですかね、思ったよりマズくて」と検査士におうかがいを立てた。
検査士が一生懸命にシェイクして渡してくれたので『思ったよりマズい』というやわらかい表現を使ったが、マズさがマシだなんてこれっぽっちも思っていない。

点滴で造影剤を入れていくと、身体が熱くなる。
高熱を出して熱いのとは違い、体中が辛くなる。
吐く息までもが辛いと感じる。揮発性のある熱さで、自分の身体から何かが流れ出てるんじゃないかという溶けてる感覚。
その熱さは針を抜けば終わるんだけど、まァ脱力感ったらナイね。
自分の身体の内側の力を使い切った感みたいな干乾びた状態。
空腹にバリウム入れて干乾びたらもぅね、ゲップしか出ないね。
検査が終わったら、病院内にあるスタバでコーヒーを飲もうとか、うどんを食べてもいいな、鰻もあるんか、リーガロイヤルのレストランかよ~、とそれだけを楽しみで行ってたけど、ローソン。
注文とか並ぶとかメニュー決めるとか、そんな思考力はもはやない。
自分が食べたいのがパンなのかゴハンなのか、それもよくわかんない。
パンを一袋持ってレジへ行き、そこで『からあげクン』かな、て気分になる。
どこか食べられる場所があるかをレジのおばちゃんに聞くと、すぐ横のスペースが使えると言う。
テラスのようなガラス張りのその場所はフリースペースのようで、本を読んでいるひとがいたり、軽食をとっているひとがいたり、面会用の談話スペースとして利用しているひともあった。

私はカラの胃袋にからあげクンを入れる。
文庫本を持参していたけれど、とても活字を読む気力はない。
ゆっくりとからあげクンを食べながら、となりの夫婦の会話に耳を傾ける。
60代後半とおぼしきご夫婦は、入院している妻に面会に来た夫、という関係性であるらしい。
私が席に着いた時すでにその席に居て、ちょっとした口喧嘩が勃発していた。
事の発端は、妻が夫に頼んでいたブローチを、夫がハナから持って来る気もなかったことにあるようだ。
そのことで立腹している妻は、夫からの何の質問にもケンカ腰にしか答えない。
退院してからの食事の心配をすれば「食事制限も何も無いねんから何をどう食べてもええ言うてるやないのっ!」
妻の話題はブローチオンリーである。
「だから持って来て、ゆぅたやないの」
「こんなトコでそんなん付けてどうすんねん」

妻の言い分はこうである。
洗濯の必要がないレンタル病衣を着用している入院生活。
バスローブと浴衣をミックスさせたようなデザインの病衣は、合わせになっている首元がどうも浮く。
安全ピンで留めても用は為すわけであるが、ソコは味気ない入院生活の中に女ゴゴロが芽を出す瞬間である。
そう言えば、私のあのブローチ。あれがちょうどいいわ。
3つあるブローチの中のひとつ。アレがイイ感じ、とビンゴさせた妻は、きっと夫にブローチが入っている場所、ブローチの形状、それらを詳しく伝えたのに違いない。

私の鏡台あるやん?椅子な、パカっと開くねん、開けてみて。中にジュエリーボックスがあるわ、そうそう、開けるとオルゴールが鳴るヤツな。その中にブローチが3つ入っとってやろ?2つはピンロックタイプの、そーそー、安全ピンみたいなヤツや。しっかり留めるようになってるやろ、裏?それは検査やらの時に具合悪いさかいに、キラキラしている花の形のヤツにして、それやったら真っ直ぐのピンやろ?挿すだけでイけんねん。それがイイわ。

夫は電話口で一生懸命ブローチの在り処を説明している妻にテキトーに返事をしていたに違いない。
リアル中継をしているものと思っていたのは妻だけで、実は夫はソファーに肩肘をつき半分夢の中で妻の電話の相手をしていたのだ。
夫は妻ご所望のブローチを探すどころか、そもそも面会時に持参しようという気すらない。
妻は電話を切ったあとで、今度の面会時に夫があのブローチを持って来てくれることを信じ切っており、とても楽しみにしていた。

ああ、捨てなくてホンマよかったわ。こんな使い方するとは思わなんだ。
あんまり使うこともないから去年、誰かにあげるか捨てるかとチラとおもたもんやけど、かさばるもんでもないしまァ持っとこ、ちゅうて。
使いようがあったがな、これ~。ほん~まちょーーーーーどええわ、あれ~。

ところがである。
夫は手ぶら。
面会の際にあれだけ頼んだブローチを持って来ていないことで、夫の性格を熟知している妻は、あんなに熱心に説明したブローチを夫が見てもおらんことを確信したのである。

「だから、持って来てってゆぅたやないの。3つあるうちのピン挿すだけのキラキラの花の形のにして、ゆぅたやない」
「何が?」
「ブローチよ」
「病院でそんなんいるかい」
「ブローチ」
「どこにそんなモンつけんねん」
「ブローチ」

一荷ににのうて棒が折れる。

おっちゃ~ん、わかんで?じゃ~くさいねやろ?
そんなんだ~~~~れも見えへんブローチなんかどこぞに付けんねんオシャレもへったくれもない病衣にキラキラのブローチなんか。
検査やなんじゃゆぅたらいちいち外すんかいなじゃ~くさいのぉんなモン最初からしていらんねん。
な~にがキラキラの花ぢゃトシを考えトシを10代の娘ちゃうねから病院に合わして地味にしといたらええがな一日レンタル200円の病衣やでソレ。


おばちゃん、わかんで~。
ブローチひとつまともに持って来られへんのんか、ホンマ~。
ブローチ何トンあったんや、ゆぅてみ。重とぅて持たれへんかったんか、え?
懇切丁寧に場所から形から説明したったやろ、サラサラ見てもへんやないか腹立つのぉ~。べつに出来んで?洗濯バサミとかで留めれんねん。何やったらホチキスでも留まんねん。それがあのブローチやってみ?気持ちがちゃうねん、あ・た・し・の!
ブローチがあったらバリウムもグビグビいけんねん。


※私が聞きかじったご夫婦の会話以外は、全て私の想像でありフィクションです。
からあげクンを食べ終わり私が席を立つまで、おばちゃんの会話はブローチでいっぱいでしたが、私はどなたの心の声も実際には聴いておりません。
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by yoyo4697ru980gw | 2013-10-09 10:33 | +YOU WIN!!+ | Comments(0)
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