摘出の儀

「切れ」
外科医とむーちんは、すぐに内臓を取ろうとする。
外科医もむーちんも取ったって痛まんさ、だって私の内臓だから。
「それ、悪化やで」
「うぅむ…そうか…。切らん」
私の脾腫は、思い返せば季節の変わり目の鼻血から始まった。
風邪でもひいたか鼻水が垂れ流れてきた…と思うとそれが鼻血であったということが2~3度あり「最近よく鼻血出てんな?」「季節の変わり目やからなァ」という会話をした。
私は昔から季節の変わり目によく鼻血を出すので『恒例の』という感覚であるが、そもそも血液に病癖があるようである。
最近出ている鼻血が恒例の季節の変わり目によるものなのか脾腫の症状のひとつであるのかが判断に迷うところである。
痛みが夏よりも強くなりたまに麻薬で散らしていることもあり、治癒上々とは言い難い。

「またいつ悪化するともわからん状況がずっと続くねんで?食事も満足にできんと、腫瘍がガンで転移とかしたらどうすんねん。それやったら丸ごと取ったらえんちゃうか?脾臓って取っても死にはしひんねやろ?」
「脾臓そのものを取ること自体は命に関係なくても、術後の生活が問題やがな。開腹手術のリスクと考えるとメスを入れたくないなぁ…脇の下から結構ザックリらしいからなァ」
4倍に腫れている脾臓の全摘出となると、ちょいと2センチほど切ってソコからデロンと出すわけにはいかんだろう。痛みの度合いからしたら今は2倍とかの小ささになっているかもしれないが、それでも2センチからトロンとは出なさそう。
脾臓がどの位置にあるか詳しいことはわからないが、痛むポイントから察するになかなか奥まったトコにある臓器のようだから、いろんな内臓をかき分けかき分け脾臓に到達するのだろう。
となると、やっぱザックリか。

メスの切れ味の良さに気持ちよくなって、ついつい外科医がいつもより余計に切っちゃったらどうしよう。
そんな強烈キャラの外科医なんて、絶対に私のツボである。
術後の経過をみるために私の病室をおとずれて私の傷口を診るのだ。
1ヶ月の入院のはずだけど、ついザックリいっちゃったから20針で済むところを38針なんかになっている。
芸術的な縫合だと外科医うっとり。
外科医、悪いクセが出る。
それで看護婦さんに「せ…先生…」とたしなめられたりなんかする。
私、ウケすぎて38針の傷口がパックリ開いちゃう。
…入院が延びるなコリャ。

いいや、切らない。

切らずに私はあらゆる痛みをコントロールする術を覚えることにする。

脾臓が腫れているために私は、6月から今日までお腹いっぱいに食べた日が数えるほどしかない。『常に少し腹が減っている』という状態である。
あまりにひもじいので夕食に思わず適量以上を食べてしまい、激痛に耐えた日が数回あった。
食べ過ぎると膨れた胃袋が、腫れている脾臓を押すから、消化するまでの3時間弱が痛い。
食欲に勝てずに何度か失敗したが、今では1回の量がわかってきた。
わかっているのに、一週間に一度は夕食でやや失敗する。
一日を通して『ちょっと空腹』が何時間も続くので、それが数日続くときっと空腹が過ぎて自暴自棄になるんだな。
空腹は人間から判断力と忍耐力を奪うね、空腹はアブナイ。

人間の満腹中枢って馬鹿に出来ないよ。
『満腹』て感じてなかったら『食べてない』て感じるみたい。
私のこないだの夕食は回転寿司3皿だったんだけど、これ以上食べたら痛くなるな~って思ってソコでやめたの。
健康に問題なければ5~7皿だから、満腹じゃないけれど飢えない程度には食べてるわけ、3皿ね。
それでも中枢がさ、満腹って思ってないから空腹だと判断したんだろうね。
回転寿司屋からウチまで車で5分。
助手席に乗ってるだけ。
自宅に着いた。
手を洗って。
冷蔵庫、開けたもんね。
食べ盛りのチョモでさえ、5分じゃ冷蔵庫は開けへんで。

「ダメだ…食べてないコトになってる…」
しかし私は知っている。
私は、さきほど3皿食べた。
満腹感を感じて食べるのをやめたわけではないが、確かに食べている。
だから私にはわかるのだ。
この空腹感に負けて私が冷蔵庫のキムチとシャケフレークをごはんの上に乗っけてお茶漬けでサラサラといただいた日にゃぁ、痛い。

私はフッと勝ち誇ったかのような一言を吐き捨てて、冷蔵庫のドアを静かに閉めた。
今の私の一回の食事量は、お子様ランチを頼んだけど途中で飽きてオモチャで遊び始める5歳児くらいである。
こんだけの量しか食べられないのだから、回転寿司は吟味に吟味、選びに選んだ3皿を決めるために、頭を使う。

「たった3皿しか食べられないからさぁ…吟味せななァ…前回の3皿は一貫の寿司が2皿だったわけで、だから3皿は3皿でも四貫の寿司ってコトやろ…今日はおやつも食べずに計画的にお腹を空かせてきたから3皿は3皿でも一貫はナシで六貫でイけると思うねん。でも軍艦はダメ。ごはんが多いからきっと痛む」
「…と、思ってるやろぉ?一緒やで」
「何が?」
「軍艦はごはんが多いって思ってるやろけど、同じやで」
「ロバートの山本が『軍艦の山本』て異名で寿司屋でバイトしてて軍艦はごはんが多いから得だって言ってたで?」
「軍艦の山本の店ではそうだっただけで、かっぱの軍艦はごはんの量は一緒やで」
「なんでそんな事知ってんの?」
「まぅが軍艦はごはんが多いからやめとく、て言うから、本当にそうかなァと思ってこないだ軍艦食べた時にごはんの大きさを確認してみてん。一緒やったもん」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「絶対?」
「うん。まぅも見てみる?」
「見てみたいけど、私が軍艦にしてそれでもし多かった場合には脾臓が痛むからヤだ。ヒー坊の軍艦を見せて」
「いいよ」
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「それだけ見せられても…大きさ比較がいるな。なんかにぎりを。にぎりのごはんを横に置いてよ。じゃないと同じかどうかがわかんない。だって海苔にごはんがくっついちゃってるもんね、それだけでは判断しかねる」
「どんどん僕の寿司がマズくなっていってる…」
「検証のためや、仕方ない。にぎりのごはんを。」
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「な?わかった?」
「ううむ…むしろ軍艦のほうがごはんは少ないような気がする。いや、一緒なんだけど軍艦の具に重さがあるためにふんわりと握られた酢飯が圧縮されていると、そうゆうことか…」
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「いいやろ?もう?すでに僕の寿司は十分マズいからもう食べるよ?」
「よかろう…軍艦はやめとく。酢飯が圧迫されて小さくなるほどの量の具が乗ってるってコトは脾臓が痛む」
「え?!結局?!僕がこんなに犠牲になったのに?!」
「アンタはええやんか、10皿はいくねんから。私は3皿やねんで?貴重な3皿やから量も味もベストなチョイスをしたいんや、こう見えて病人やねんぞ」
患者の中で誰よりも若く、誰よりも元気そのものに見えてる自信がある私の脾腫は、食後が一番痛いから、こんなに3皿に慎重になるの。
それほどの痛みということだ、私に根性があるから痛いって言わないだけで。

かっぱ寿司の軍艦のごはんの量はにぎりと一緒だが、それを確認しようとすると寿司が不味くなる。
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by yoyo4697ru980gw | 2013-10-07 10:09 | +YOU WIN!!+ | Comments(0)

どうでもよいことを考えはじめたらキリがおへん どうでもえぇのについつい考えてまう どなたサンもその状態が「ミルニング」どすぇ


by MA