武士の魂

「千徒さん、着信なんかおもしろいことしてない?」
「私ですか?着信…普通だと思いますが…」
着うたじゃなくて着メロでクレバの『来ればいいのに』が流れる着信音。古さ以外には何の面白味もないと思う。中学校の階段を降りながらの会話だったので、私が階段の途中で違う人と出会ったりしたこともあり、先輩保護者であるおフジさんとの着信音トークはそれにて終了した。
しかし、私のケータイにはおフジさんからの無言のメッセージが入っていた。入っていたと言うより「電話を切りそびれた」というカンジで。
おぉ、そうか。着信音とはこのことであったか。おフジさんは、私からの不在着信を確認して私に折り返してくれたのである。けれども「役員選出中」であった私はその電話に気が付かなかった。

まぁ毎年のことではあるのだが、クラスのもめ事の元凶が「役員選出」ですな。執行部の人間が「役員選出時の不満の窓口」になるのは覚悟をしていたつもりであったが、それを「見ている保護者」である立場なのと「執行部として同席」である立場なのとでは、雲泥の差。正式には私はまだ執行部ではないのだが、新執行部候補の人間ということで、何かあった時の説明係として同席していたわけである、我が子のクラスでもあったしモノはついでで。
恐ろしいコトに「何かあった」ので一生懸命説明をしたのだが、追及の手が緩むことはなく、他のおかーさんに「そんなことを聞いても、彼女だってわかることじゃないやろうに。もう先に進みません?」とかばってもらったり、「こうこうこうゆうのはできひんの?」と言われ旧執行部のひとに電話で訊きまくったりして、とうとう「我がクラス待ち」という状況になるまでもめた。その後の話し合いで納得のいく形でのクジ引きとなり、時間はかかったが、最初の難関はひとまず突破したヤレヤレ感に満ち満ちた半日であった。
思ってはいたことだけれど「執行部」ってやりきれない気持ちを抱えるポジションである。今までは「執行部って大変そうやなぁ~」と思ってみていた。執行部に顔見知りのひととかもちょっとはいたので、学校で会えば積極的に挨拶はしたし、執行部のひとから「お願いがあんね~ん…」と言われれば出来る限り応えるように努力もした。イヤなポジションを引き受けてくれてはんねから、せめて協力的な保護者として貢献しよう。しかし皆が皆、そんな気持ちの保護者というわけではないのだ現実は。そのことを「執行部」という立場で知るのが一番、ツラいトコロかもしんないな。おめでたく「みんなイイひと~♪」と思っていたわけではないけれど、でもそう思いたい気持ちは100%そうだった。

「ぁたし…執行部やれっかなぁ…」
「だいじょ~ぶよぉっ♪やれるって思えるひとしか声掛けてないねんからっ!」
私を執行部へと導いた犯人キーさんが、無責任にも言い放つ。もー…今年で終わりやからってー…携帯番号訊いたからー絶対なんかあったら電話しよーっと、キーさん。
でも、任期が終わりやのにちゃ~んと新執行部候補をサポートしてくれるキーさん。キーさんのメールアドレスは知っていたけど番号は知らなくて、役員選出時のヘルプの電話を私は、引き続き現執行部として残る経験豊富な執行部の人にしまくった。しかし、知っている二人、会議室で待機しているはずの二人、どっちも電話に出てくれないのだ~。私は泣かんばかりの状態だったので、たぶん仕事中であろう副会長(男性)にまで助けを求めた。ひつこくひつこく電話を鳴らし続け、電話口に出た副会長に「今、よろしいですか?」という確認もせず「あのぉー役員選出もめてましてぇー委任状もなにも出てないひとがー」と本題から入った。副会長は「うん、あのな?それは…」と説明することの説明を私に丁寧に説明した。そして、選出された役員と共に会議室に行った時、「もぉ~副会長から電話があったよぉ~千徒さんからヘルプの電話があったよーゆぅて~、どうしたーん??」と声をかけてくれたのが、キーさんなんである。私の必死な電話の雰囲気を察知した副会長が「千徒さんだいぶテンパってんで?大丈夫か?」とキーさんに報告してくれたようである。いろんな「もめ」を経験しているキーさんは「今年はまだマシよ~ここで泣き崩れたひとだっているんだから~」と、肝っ玉かぁちゃんみたいなことを言っていた。す、すごいな…執行部の役割って…。

私の簡易留守メモリストには、おフジさんから一件メッセージが蓄えられていた。聞いてみたら、慌ただしいカンジの雑音の中、おフジさんが「ん?」と思っておいでなのだろうなぁ、と思うような雰囲気の息使いで「切るタイミングを逃した」何秒間かが録音されていた。
それでか…それで着信におもしろいことをしていないかとお聞きになったのである。
私の簡易留守メモは武士が取り次ぐ。忘れていたくらいに私の簡易留守メモにメッセージが録音されることは無い。だって応答時間が30秒もあるのだ。30秒間コールし続けてやっと武士が取り次ぐのである。「拙者のいない時に電話してくるとはなんとタイミングの悪いヤツ!何用じゃっ!名を!名を名乗れっ!!」ちゅうて。30秒は、コールしているほうには長いようで、滅多に武士の声を聞くひとはいない。その前に気付けば私も電話に出ちゃうし。しかしまれに、私が気が付かない時に留守番サービスに接続するのを待ってメッセージを残そうとしたひとが、律儀に30秒のコールをしてくれる時がある。私は留守番電話サービスには接続しない設定にしているので、30秒後には自動的に簡易留守メモになり、武士が取り次いだあとで録音開始の合図が無情にも「ピー」とすぐさま鳴るのである。
30秒コールし続けた「メッセージを残すつもりだった」ひとであっても、武士に「名を名乗れっ!」と凄まれて、冷静に名乗り用件を告げたひとはいない。「ビックリして切った」というのがイネさん。むーちんが出てかなり怒って何かわめきちらしているのでビックリして思わず切ったよ、と言うので「それは武士だ」と誤解を解こうとしたが、説明不十分のまま用件に入ったのでヘンに誤解したままだろうな。

武士だったんだなぁ…私は武士の魂を設定していたんだなぁ…そうか…忘れるトコロだった。
携帯の簡易留守メモ設定の武士はフザけているけれど、「武士の気高さ」見習おうっと。それでいこうっと執行部での自分。
「言い争い」って不満が不満を呼ぶと思う。誰かの不満が、口にした途端に違う誰かの不満の種になり、言い出したらじゃぁアレもコレもと収拾つかなくなってしまう。不満を口にしない気高さってひととしてのモラルやと思う、難しいけど。言うべき主張やと思うんやったら「不満感アリアリ」てな言い方をせずに言葉を選んだりするのが最低限のマナーやと思う。相手を不愉快にさせないことを考えて発言する配慮は要ると思う。
そんなことをつらつらと考えていたら、どーも「やりきれねぇ~」って気分。ウチの男衆ときたら、ほん~ま思いやりのカケラもないようなコトしか言わんもんやから私が見習う「気高さ」の低いこと低いこと。
家でやっておかねばならんことが、やっておきたいことが、ごっついあんねけど「家にこもってる気分ぢゃぁねぇな」とブラブラしてみた。「広告の品」を買いがてらブラ~ブラ~。

そしたら、こんなブラブラだった。

図書館に期限の過ぎた本を返却。期限が切れていることを忘れていた私が「わぁ…すいませんでした」と謝ると、「切れているのはこの一冊だけですよ、あとは期限内に返していただいています」と司書さん。
…気高い。
わざわざ言わなくてもよいっちゃぁよいこの言葉。でもこの言葉をかけることで、私の気持ちは軽くなるではないか。「ぅわー忘れてたー」という申し訳ない気持ちでいる人間には「全部ではないですよ、一冊だけなんで『ウッカリ』してたんだと思います、よくあることですよ~」のような思いやりの気持ちが伝わってくるではないか。そんな言葉をかけられると私は当然こう思う「次からはちゃんと期限内に返しにこよう!」
しかしこれが「期限が切れてますから、次からは期限内に返却してください」と冷たく言われたならどうだろう?司書さんがした仕事の結果だけをみれば、仕事内容は一緒である。「期限内に返さないひとに期限内に返すよう促した」という仕事をこなしている。
しかし私はこう思うに決まってる。
「だ~れが返すか~っ!一日遅れたダケやんけ~!期限切れたら、休館日に返却ポストに入れたんね~んっ!!」
言葉とは、いかようにも使い分けることが出来るんである。

図書館に期限切れの本を返却した帰り、スーパーに寄ると駐車場から車が出て来た。私はその車の前を徒歩で横切ることになる「スーパーの入り口」に向かっていたので、車が車道に出て行くのを待っていた。すると私とは反対方向から60がらみのご婦人が、両手に荷物を下げ小走りでこっちへ向かって来たのである。車の運転手は左右確認をする際にこのご婦人の姿が見えたのだろう。しかし、左右から車は来ておらず、ご婦人の小走りのスピートからいって十分、先に車道に出ることが出来た。だが運転していた女性は歩道にちょいとフロント部分が出ているワレの車を、わざわざバックさせ、小走りする女性のために歩道を確保したのである。小走りしていた女性も、十分に車道に出られる感覚はあったようで、小走りを徒歩に切り替え車に道を譲っていた。しかし車の反応を見、「まぁどうもすいませんねぇ、ありがとう」と言いながら、下がった車の前を深々と頭を下げて横切った。小雨が降る中、窓を開けていないから聞こえないであろう運転手はそれでも、下げられた頭からお礼を言われたことは察したのだろう、口をパクパクさせながら二度、頭を下げた。その口パクが私には「いいえ、いえいえいえ…」と言っているように、見えた。
…気高い。
このお二人はなんて気高いのだろうと私は思った。雨の中、互いに急ぎたい気持ちはあろうに、互いに譲り合い、譲り合ったことにお礼を言い合い、そうすることになんのためらいも感じられない。ためらうことなく「ありがとう」と口にし、「いえいえいえ」と口にしている。なんて気高いのであろうか。
バックした運転手はそのまま、私に「どうぞ」とジェスチャーもしたのである。今このタイミングで車道に出ることは出来たのに、やはり気高く私に道を譲ってくれた。

帰るまでには「小雨だからこその光景」を目にした。それは、シルバーカーを押して歩いている老人に、後ろから歩いているひとが傘をそっと差し出している光景である。差し出しているのは若い男性だった。おばーちゃんは俯いてシルバーカーを両手で押していて、傘はさしていなかった。さすかささないかが人によりけりという具合の小雨で、私ならささない。しかし青年はさしていた。ゆ~っくりと進むおばーちゃんの歩いている歩道が柵のあるちょっと狭いタイプで、シルバーカーの幅を考えると、追い抜かせないこともないのだが、追い抜かすのに気付いたおばーちゃんはシルバーカーをきっと脇に寄せようとするだろうなぁという幅の歩道なんである。
青年は追い抜かさずに同じペースで歩いていた。背の高い青年と俯き加減で歩いているおばーちゃんの身長差はだいぶあるが距離には差が殆どない。青年は黒い傘を腕を伸ばしてさしていて、辛うじてその中に自分が入っているという程度だった。その傘はおばーちゃんの俯き加減と同じ角度で俯いていたので、彼の背中は雨を浴びているに違いない。まったくの他人同士なのだけど、彼はおばーちゃんっ子なのかなぁ…それで自分のおばーちゃんと重なって雨に濡れないようにしてあげてる…なんて気高い子なのだろう。他人同士かどうかの確認をしたわけではないが、他人同士なのだろうと思う根拠はある。彼の傘の持ち方である。腕を伸ばして「ちょっと高くないか?」と思うくらいに上げてさし、おばーちゃんの角度に曲げていた。もっと低い位置のほうがもっと濡れもしないだろうが、彼の傘はカラスなみに黒かった。低くさせばわずかではあるが光を遮り、俯いているおばーちゃんが気付いてしまうかもしれない。同じ方向に同じペースで歩いている間だけでも、そっとおばーちゃんを雨から守る。この行為は秘密裏に行われているような気がした。私は彼らが行く方向から逸れたので、想像だけでそう解釈したけれど本当の孫だったかもしれない。それでも青年の行為は私に気高いことの尊さを十分に教えてくれた。

「やりきれねぇなぁ~」なんつってブラブラしてみたけれど、気高い人間のほうが多いねんなぁ~やっぱり。みんな気高いんだけど不満が不満を呼んで見失ってるだけちゃうか、実は。
時代劇でサ、武士がさぁ用事もないのに町をブラブラブラブラほっつき歩いてるシーン、あるやん?ずっと思っててん「侍ってヒマやってんなぁ~」って。時代劇やから必ず何かしら起こることになってるけど、現実ではそう事件も頻発せへんやろから、ブラブラ武士だらけやないかって風に思ってたけど、アレにも意味があったんちゃうか。パトロールっていうのがひとつかな。ほんでこっちのほうが重要やけど、民の気高さを学習してたとか。身内を守ることや、仲間を思いやることから自然と出る気高さをた~くさん見て糧にして、気高さを積んでいる。そうやって武士は「気高さ」を維持するためにブラついてる。
どうだろう我が息子たちよ、武士の魂を身につけるためブラつくことで「気高さ」が維持できるもんかどうか、実証してみらんか。
用事もないのにブラブラほっつき歩いて、些細な気高さに気付くのだ!
ブラつくのは休日の日中にしたまえ。夜にやってると補導されるぞ。
その時はおかーさん、身元引受人にはなりませんからね。
[PR]

by yoyo4697ru980gw | 2010-04-21 11:59 | +ミルニング+ | Comments(0)  

<< 時間がないって言っておきながらね 怖いコワい 饅頭も靴下も >>