貢ぎモノ

本を読んでいたらハッとした。そこには猫の習性が書かれてあったのだ。猫には恩を感じる気持ちがあって、何か獲物を捕らえたら普段お世話になっている大切なひとにそれをプレゼントする習性があるという。猫をペットにしている人たちの間では知れ渡っている事実らしく、春になると愛猫が貢ぐ季節になったことに覚悟するそうである。枕元にミミズをプレゼントされたり、スリッパの中に野ネズミが入っていたり、クッションにカエルが置いてあったりするらしい。在宅ならば捕れたての蛾を足元にポトリと落とされたり、目の前に息絶えたスズメが運ばれてくるそうだ。そして文中の一文に私はハッとした。

いずれの場合も、獲物の遺体にはそれほど損傷はなく、きれい。どれも一撃で仕止めて、一口も齧りもせず、そのまま差し出してくれたものと思われた。

ぁあ、なんてこと。私は猫に貢がれたんぢゃないのか。

何年前のことだろう、我が家の玄関前で朝、野生の鳥が死んでいた。スズメよりも大きくカラスよりは小さい茶色の見たこともないような鳥だった。出勤するむーちんが発見し、私が確認したその屍は本当にキレイで死んでいないかもしれないと思うほどだったが、ピクリともしない。死んでいるとは思うが、念のためにとチョモが触って確認した。チョモの見解では死後硬直がだいぶ進んでいるので30分以上は前に死んでいるだろう、とのことだった。110番に電話、「はい110番です、事件ですか?事故ですか?」「相談なんですが…」「どのような事でしょう?」。我が家の前に鳥の死骸があってどうしたらいいか思って…と相談を持ちかけると警察は、鳥の首がないとかで近所で騒ぎが起こっていないか、と訊いた。死骸は全身あって騒ぎはないことを伝えると、市役所に電話することをすすめられた。しかし朝の早い時間なので市役所はまだやっていない、だからってこのまま意外と大きさのある鳥の死骸を玄関前に2時間も放置しとくのか?30分もすれば6戸あるこの文化住宅の住人が次々に出勤、登校するだろう。新聞紙で目隠しでもしておいて…いや逆に目を引くって…ヘタに人間の手が加わっている的な処置を施してしまったら、なんしか我が家の前である、どう見たってウチがアヤシイぢゃないか…どうしたらいいんだ…。困りながらも私は、とにかく今よりも人目につかない場所へと死骸を移動させる方法を考えねばならんだろうと、外へ出た。すると、警察に電話して困った困ったと思っていたものの10分くらいの間に、玄関前から鳥の死骸が忽然と姿を消していたのである。…生きていたのか?…いいや、絶対に死んでたって。「死骸が消えてる…これは…事件のニオイがしないか??」と私は我が子に訴えた。私が、すごく誰かに恨みを買っているんぢゃないだろうか?それでこれは嫌がらせなんぢゃないだろうか?明日から毎朝、何かしらの死骸が置かれるのではないか?それは日に日にデカくなるんぢゃないだろうか?最初は鳥、そしてネズミ、それから猫、いずれ犬、とうとうクマ…。ゾウになる頃まで私は正気を保っていられるだろうか。
妄想がぶっ飛ぶ私を諭すように、チョモは冷静に言った。みんな朝は忙しんだからそんなことしてるヒマはない、早起きしてわざわざ死骸を届けに行くか?嫌いなヤツのために時間なんて使いたくないやろ。…ごもっともー。

死骸が玄関前にお供えされたのは一度きりだった。よかった恨みを買ってなくて…と安堵してこの出来事は終わったが、あの死骸が猫からの貢物だったとしたらハナシは別である。終わっていないではないか。心当たりがあるのだ、猫に感謝されるかもしれない可能性が、私にはある。
私だって子供の頃のペットとして猫は飼った。おばーちゃんちのペットは猫である。しかし、この猫たちに感謝されるようなことはないし、あったとしても宮崎ぐんだりからはるばる貢ぎになど来ないだろう。
カン違いで感謝してくれるかもしれない猫は、我が近所に3匹いる。我が家のイッパチ農園を勝手にトイレとして使用し、イチゴのためのイッパチハウスにサウナ感覚で出入りし、農園グッズを入れるための収納BOXの上をひなたぼっこスペースに使っている、飼い猫・野良猫の3匹である。この猫たちに、作物は荒されるわ土はワヤにされるわで困り果てているのだが、猫のほうはカン違いしているかもしれないのだ。
「すまないねぇ…いつもトイレの土を耕してくれてて、とってもかぶせやすいよありがとう」
「悪いねぇ…こんなに雨風凌げるハウスまで用意してもらっちゃって、おかげで冷えもよくなったよありがとう」
「おっと今日はナニかい収納BOXの上に何も乗っていないね、広々としててひなたぼっこがのんびりやれるじゃないか、明日は8丁目のブチも誘うことにしようかなどうもありがとね」
…違う、断じて違うぞ。
オマエらが勝手に…思い込んでるだけなんだよ…。引っ越しを控えているから秋の作物を植えるのを今年はやめただけなんだ、オマエらのトイレとして開放しているわけぢゃない。雑草を抜いたのは虫の住処にさせないためだ。何も植えてないから農園グッズを収納BOXにしまいこんだまでだ、ひなたぼっこバリアフリーにリフォームしたつもりはねぇよ。目を覚ませ、目を覚ますんだオマエら…ひなたぼっこをしてる時、勝手にハウスでまどろんでいる時、私に見つかったオマエらは威嚇され「こらぁああぁああ!!」と追い出されているぢゃないか、忘れたのか?バケツに水を張っているのは、バラにあげるための水。オマエらの飲み水ぢゃねぇよ。

「…てサ、私がイッパチ農園のためにやってることを猫が都合よく解釈しちゃってさぁ…それで日頃のご愛顧に感謝して貢いでたりしたら、もうかなりカン違いなんだけど。」
私が「貢ぎモノ」である可能性がなきにしもあらずだと説明すると、ヘイポーは言った。
「猫…カン違いもいいとこやな。」
昨日だって食事中、裏のブロック塀に黒猫の前足が見えるや否や、「んっ!!!!」とおコタの天板に平手打ちをかましたかと思った瞬間には立ち上がり5歩で網戸まで駆けて行き、暖簾をバッ!網戸をシャッ!!
「おぅらぁ~っ!いら~んっ!!」
と、威嚇。尻尾を立てて悠長に歩いて来た黒猫は、私の迫力にブロック塀から足を踏み外して逃げて行った。
「…チョモ、見たか?今のが瞬発力や。」
チョモの専属コーチむーちんが、瞬発力とは何かを私で説明。チョモよ「感謝されたくない」という気持ち、それが瞬発力だ。しかし、この瞬発力が陸上の短距離に使えるとするなら、コースの中央あたりに黒猫を置いておく必要がある。はっきり言って邪魔だ。陸上競技場で黒猫なんか見たくねぇし。
お願いだ…絶対に感謝しないでくれ。
恩を感じるな、貢いでいらん。
私が玄関前を掃除して雑草を抜いているのは「ココにお供えしてね」というアピールぢゃねぇからな。
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by yoyo4697ru980gw | 2009-10-13 16:12 | +丁猫犬堂+ | Comments(0)  

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